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「南極点のピアピア動画」野尻 抱介 [BOOKS…「魔女の本棚」]


南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 野尻 抱介
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/02/23
  • メディア: 文庫

初出2008年~2011年及び書き下ろし

――――「夢がある」
そう人が言うとき、その人は「それ」が現実のものでは無い、と言うことを言外に表すものだ。
謂わば「それ」と言う存在に対する「拒絶」あるいは「却下」、すなわち「寝言は寝て言え」。
つまりは言われている側(そう、私自身でもある)がまさしく荒唐無稽な虚言を吐いていると言われているわけだ。そういうことが続くと、そう言われることに無性に腹が立ち、「夢は実現してナンボんのもんじゃい」と息巻いてみたりもするが、所詮は言われるだけの実力しか持ち合わせていない、という悲しい現実があって、やはり「夢」は「夢」なのかも、己と闘うことを止めそうになる。

SFと言うのは、「現在」に潜在する事象・予見される芽生えを想像力によって拡大し成長させて「未来」を予測して表現するジャンルである。ゆえに科学が一部の人々のものであった時代、「夢物語」であり、想像することを苦手とする現実主義者=一般人から敬遠されてきた。
しかしながら現在の技術革新ときたら、既に一般人の手の届かないところで急激な進歩を遂げ、いや、むしろ一般人が最先端のテクノロジーを自在に操っているではないか。ITから程遠いと思われがちなF3層(50歳以上の女性)がスマートフォンを駆使しているのを見るにつけ、むしろPCにしがみ付いている自分のほうが時代遅れだと感じてしまう今日この頃、デジタルネイティブなどは言わずもがなである。

さて、これまた言わずもがなであるが、本書タイトルにある「ピアピア動画」とはすなわち「ニコニコ動画」、カバーで真っ直ぐな眼差しを向ける「小隅レイ」は「初音ミク」の揶揄である。所謂「一般人」がSFに入りやすいように、と言う意図もあるらしいが、確かに「ニコ動」「ミク」は既にオタクの範疇を超えている。そもそもオタク的なものが裾野を広げ、平準化してきている時代なのだ。制限が無いわけではないが、個人がマニアックな事象を手に入れ易く、そして繋がり易くなった「集合知」の時代である。
この設定を見事に生かし、あたかも現在のシステムで実現されていくかの如く物語が紡がれていく。読み進めていくと、なんだかホントに出来ちゃいそうな気がしてくるのだ。そう、あの「はやぶさ帰還」の物語のように。
しかし、ふと我に返ると実に夢物語なのである。もしかすると出来ちゃいそうな物語に続くオーバーテクノロジーをすっかり受け入れてしまっている自分が居て、失笑してしまった。もちろん心地よいほうの、である。

「夢」は眠っている間に脳の記憶領域が見せるものだ。そう考えると、如何に荒唐無稽であろうと、現実に起こったこと(もちろんそれが真に現実である必要は無い)を組み替えているに過ぎないのだから、すべてが現実の延長線上にある。「夢物語」が「夢」で終わるのか、「現実」になるのか、それは現代を生きる人々の営みの上にあるものなのだ。だから、SFは止められない。(そして、夢をみることも。)
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