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「生命をつなぐ進化の不思議」内田 亮子 [BOOKS…「魔女の本棚」]


生命(いのち)をつなぐ進化のふしぎ―生物人類学への招待 (ちくま新書)

生命(いのち)をつなぐ進化のふしぎ―生物人類学への招待 (ちくま新書)

  • 作者: 内田 亮子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/10
  • メディア: 新書


就職したばかりの頃、ひとりの先輩女性がこう言った。
「人はね、生きてる間に3つのうちのどれかを残せば良いんだって。
 それは、『もの(作品)』『金(資産)』そして『こども』。
 私はね、子どもを産んだのでもういいの。」
80年代初め、まだ事務職では育児休暇の取れなかった時代。当時でも共働きの当たり前の職場だったが、若干遠距離通勤でもあった彼女は、夫の実家住まいで、家族からも「お嫁さん」であることを望まれていたこともあり(だからこそ「自分」でいるために仕事を辞めなかったのではあったが)、3人目の子を出産してしばらくしてから退職していった。
「あなたは何を残すのかな。」

人間は、動物である。生命(いのち)をもつもの、生物の中の「ヒト」と言う種である。
生命とは、何か。
遺伝子により継続していくもの、少しずつ少しずつ、周りの環境に適応しながら、また、周りの環境を変えながら、本能として「種の保存」を知り、連綿とつながっていくひとつの生命。
個体には長くも短くも寿命があり、生まれては死んでいく。
しかし「生命」と大きなくくりをしてみると、種・それ自体がひとつの生命とも考えられる。
アメーバのような原生生物が細胞分裂を繰り返しながら大きくなっていくように。

生命はその維持のために様々な行動を起こす。
食べる。共同生活をする。繁殖する。
種ごとの方法はともかく、次世代を産み育て、個体としては老いそして死ぬ。
人は、いや、ヒトは確かに高度な知能を持っているが、結局は他の生物と変わることはない。

本書はまず、生物の種としての行動をひとつひとつ積み上げてひも解いていく。
昆虫も鳥も小動物も猿も人も、食べることで個体の生命維持をし、その栄養状態によって繁殖をする。
効率を求めて社会を形成する。楽になった分退化する。それがまた必要性を生み社会が進化する。(ヒトが他の生物と違うとすれば「経済」が異常に「進化」したと言うところかも知れない。)
大型類人猿の調査で、個体の栄養状態により子どもを産む数が増えたり減ったりする、と言うのは面白い、と思った。なるほどヒトの産む子どもの数は減るわけだ。母体だけでなく精子生成の増減も変わる。
個々の生命の生き方=ライフサイクルを辿りながら記述は進んでいく。
そして老化。(これは自分の年齢的にも一番の関心事かもしれない。)
そもそも野生動物では老衰よりも事故(捕食)・病気・気候変動で死ぬのが殆どだそうだ。
ヒトに限らずだが、長い命を得てしまったが故に「老化」がある。
類人猿のデータを中心に各種研究成果を元に語られてはいるが、実にここまで人間社会に寄りそって章立てが進められている。生物学の本なのに社会学の本を読んでいる気にさせられるのだ。

最終章、いよいよ「死」が語られる。
死は「個体」としての生命の終わりである。
しかし生命は社会を作り次世代につながって行く。
ここでやっと、「ヒト」が「人間」であるための生き方が示されるのだ。
すなわち「知」。他の生物にも「知」の蓄積はあるが、ヒトは大きな大脳を得たことで「知」の方面で大きな進化を遂げた。しかしそれにより自然界としては大きく環境を変えてしまっている。
蓄積された「知」がクライシスを起こそうとしているように言う人は多いが、回避できるのもまた「知」。
「生き方」そのものに「知」を働かせ、それを次世代に伝えていく。
それこそが「ヒト」と言う種を生き残らせるための手段なのだろう。

本の帯に「ライフヒストリーという物語」と書かれていた。
「人間」と言う社会的生物が、ひとつの生命としての物語を綴っていく。
堅いようで柔らかい頭脳を持つこの碩学のひとりの生物学者が同い年の女性であることに、誇りと、ちょっと嫉妬を感じてしまった。あなたは既に素晴らしい「知」を確実に残していますよ、と。
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