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映画「おと・な・り」 [VISUAL&ARTS…観る。]

2009 ジェイ・ストーム
監督:熊澤 尚人  脚本:まなべ ゆきこ  主演:岡田 准一


「近隣騒音」という言葉がある。
街中に住んでいれば否応なく付いてくる。
機械音やら自動車の走行音、繁華街の嬌声。
それは聴力を持つ以上、「音」として受け入れざるを得ない。
また、「音」と言うのは完全に耳を塞がない限り聞こえてしまうやっかいなものだ。
街中の音は酷ければ訴えることもできるし引っ越すこともできる。
しかし「近隣」と言っても、まさに隣近所の一般的な生活音となると、そうもいかない。
お互い様、ということもあり、気になっても、余程じゃなければ耐えるしかない。

さて、とはいえ、ご近所の音がすべて騒音というばかりではない。
慣れ、というのは恐ろしいものだが、あながち慣ればかりでなく、「何の音か」を理解すると聞こえても気にならなくなってくるのだ。もちろん慣れずにイライラの種のままの音がなくなることはないが。

昨今隣人と逢うことは滅多にない生活をしている。管理のしっかりしているマンション住まいということもあって、最低限の近所付き合いといっても敷地内で会ったときに挨拶を交わすくらいで、一歩外へ出たらすぐ隣に住む人でさえ、まったくの他人である。
顔も覚えていない人であるにも関わらず、その他人である隣人の生活音が騒音でもないのに気になるのは、その話声も含む「音」がまったくの無防備さから出されているから、と言ってもよいだろう。
普段は気にして大きな音をだすことは控えていても、ふとした日常会話まで緊張していたら身が持たない。挨拶を交わしているだけでは見えることのない飾らない隣人の生活が垣間見える、そんなナマな音の世界。幸い我が家の隣人は若いファミリーなのだが、その「音世界」に於いては、とても穏やかで微笑ましい。これについては、その巡り合わせに感謝するしかない。

目に見えるものがすべてではない、もうひとつの感覚の世界。それが「音」の世界だ。
聞こえ…いや、「聴」こえてくる音が紡ぎだす世界は音楽にも似て。
実際に会う…いや、「逢」うのとは違った出逢いを生みだす。
むしろ「逢わない」からこその世界。

無理に関わる必然性もなく、ただ隣同士、というだけの2人の「音」による繋がりの世界。
男女ということもあり、お互いのプライバシーを気遣うからこそ敢て会わない、というのもあったろう。
実際、「無防備な自分」を知っている人と顔を合わせるというのは気まずいものだ。
「筒抜け」だからこそ気遣いあう、控え目で小さい「音」の積み重ねが、実は互いに相手を思いやるココロを感じさせる音…気になりつつも気に障らない音、受容された音となっていくのだろう。そこにある音には攻撃性もなく、また嫌悪感もない。

物語が進んでいくうちに隣同士の2人の関係性が変わっていく。
「いつもの音」に異質なものが入りこみ、その変化をもたらしたものがなくなったとき、折しも転機を迎えていた2人の人生は、すでに動き出していた。
出逢いの「偶然」に気づかせたのは音であり声。すでに受容されていた音は、人間の得る外部情報の8割を占める視覚情報を飛び越えダイレクトに記憶を喚び起こす。

ラブストーリーでありながら、それに留まらない脚本・演出の力、ささやかな「音」への気遣い・こだわりが、優しい音の世界を紡いでいく良作を生みだしたのだと思う。


公式HP http://www.oto-na-ri.com/
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