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映画「潜水服は蝶の夢を見る」 [VISUAL&ARTS…観る。]

原題 Le Scaphandre et le Papillon (2007 フランス=アメリカ) 
監督:ジュリアン・シュナーベル 主演:マチュー・アマルリック

目が覚めたときに見えるもの。
これまでの自分とは違う自分。

「いのち」は「重い」と言われる。
しかし「いのち」ほど「軽い」ものはないのではないだろうか。
風船に詰められた気体、それが「いのち」なのでは、と思う。
水素のように、ヘリウムのように、軽いモノ。
肉体という被膜が破れたとき、死が訪れる。
まれに気体の抜けたガワだけの風船もあるかもしれない。
重いはずの「いのち」は実はあまりにも呆気ない。

主人公は実在の人物。瞬きだけで綴ったエッセイが原作。
「潜水服」はまるで動かなくなった肉体だ。しかし表現する手段を得た彼は「蝶」のように想像力を羽ばたかせる。硬化したゴム風船の中にある軽い軽い気体。それは魂の自由とでも言えるか。

彼は成功者だった。やりたいことを実現させてきた。
しかし、どんな人間にも避けられないもの、それが死。
でもそれ以前に、ひとは一人で生きているのではない。
「家族」と言う不思議な縁がある。
縁とはもちろん血縁だけでなく、友人知人通りすがり、いろいろな関わりはあるが、「家族」とはまったく別なのだ。「家族」と言う「縁」はいかに絶縁したつもりでも切れないものだ、と思う。特に親の存在は。捨てられない絆。それは自分が「老い」を感じて初めて「ほんとうに」気づく。
倒れる前後を通して描かれる彼と彼の父親の関わりは、ストーリーのほんの一部ではあるが、そんな無償の何かを通して「生きていく」と言うことを語りかけてくれる。そう、いかなる人生も「生きていくこと」そのもの。親から子へ伝えられていく何か。彼が父から受け取ったものはまた彼の遺児へと伝わっていくのだろうか。生物としてのヒトの持つ、「いのち」のリレーとして。

それにしてもこの映像の美しさは。
美の国フランスであるゆえか、アーティスト監督の卓越したセンスゆえか。そもそも「美」の世界の住人であった主人公(世界的ファッション雑誌編集長)のセンスさえも伝わってくるようだ。
そして、ひとつひとつの視点のもつ意味が、移動していくさまが、主人公への共感を生んでいく。また、病院スタッフ特に介護にあたる者の描かれ方は、もともとの原作者である主人公の「目」ゆえか。彼らと一緒にいる時間は観客という一傍観者にとっても楽しくさえあったのだ。ひとも絵も、「美しい」ものがたりであった。


原作本はこちら。私は未読です…。
潜水服は蝶の夢を見る潜水服は蝶の夢を見る 
作者: ジャン=ドミニック ボービー
出版社/メーカー: 講談社
発売日: 1998/03/05
メディア: 単行本


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